FRIDAY(フライデー)

空気階段・水川かたまり「独占インタビュー」キングオブコント優勝までの誰も知らなかったホントの話

元NSC17期生・いけるか小机の「ソデバナ」第1回・水川かたまり①

<芸人たちが本音や素顔をのぞかせる瞬間がある。それは舞台袖。自分の順番を待ちながら、ステージに立つ仲間の活躍をみながら、彼らは素で語り合う。そんな会話は「袖話」と呼ばれる。東京NSC17期の元吉本芸人・いけるか小机が、お客さんの前では決して漏らさない芸人たちの本音を引き出すトーク企画。それが“ソデバナ”だ。

第一回目のゲストは、同期で2021年キングオブコント王者の空気階段・水川かたまり。優勝の裏側について、コントについて、そして自身の未来について――同期にしか話さない「本音」を存分に語った>

水川かたまり 1990年7月生まれ、32歳。岡山県岡山市出身。2011年、吉本興業の養成所である東京NSCに17期生として入学。鈴木もぐらと出会い、「空気階段」を結成。2021年、キングオブコントに優勝
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デビューから何も変わってなかった

「そうだねえ。休みは全然ないなぁ……。『キングオブコント』(以下KOC)で優勝してからは、3日だけ。(相方・鈴木)もぐらの誕生日と、もぐらの次男の誕生日と、もぐらの家族旅行の日の3日だけ休んだ。ずーっと変な感覚なんだよね。テレビとか出続けているのがさ。いまもまだ、現実味がないまんまやってるんだよね」

ゆっくり話す水川かたまりの姿を見ながら、なんだか僕も現実感がわいてこなかった。「彼が今をときめく人気芸人なんだ」とは思えない。

それくらい、水川は変わってない。11年前のあの日、NSCの同期として同じクラスで初めて見た時の印象のままだ。

接してすぐわかる、人見知り丸出しの感じ。一歩引いていてシャイで静かな感じ。

実はこのインタビューの直前、僕はとても緊張をしていたので、水川に謝った。

「ごめん。オレすごい緊張してるんだよね。今日、迷惑かけるかも」

普通ならそこで厳しい(愛のある)ツッコミが来るものだが、水川は「いいよいいよ~。何回も撮りなおせるんだから大丈夫だよ」。

この柔らかくて優しい感じも、変わってない。

このインタビューの約2週間前。NSCの同期の結婚式の二次会があって、僕も水川も出席した。水川は昔のまんまの姿で静かに飲んでいた。でも、しばらくすると、いつのまにか彼の周りには人が集まっていた。昔から変わらない水川は、いまもみんなから愛されている。

芸人に限らず、人は何か大きな結果を残すと変わるものだ。実際僕の周りでも、成功をおさめたあとに、良くも悪くも変わっていった人たちを何人も見てきた。

よく言われる話だが、芸人の世界はとても厳しい。こうやったら売れます…なんて教科書もないし、正解もない。いつ幸運が転がり込んでくるかもわからない。それが来年かもしれないし、20年後だってありうる。

だから目の前にチャンスがあれば必死にアピールするし、売れるためならビジュアルもキャラも変えることだっていとわない。

中身はまったく11年前と同じ水川は、何が変わったんだろう。僕ら東京NSC17期のトップを走る空気階段は、どうやってKOC優勝を摑んだのだろう。

4年目での快挙

2015年、芸歴4年目にして空気階段はKOC準決勝進出をはたした。はっきりいって快挙だ。とんでもないことだった。

「4年目で準決勝に行けたときは、めちゃめちゃ『やったな!』って感じだった。準々決勝に進出するだけでも、若手にとっては難しいことだから周りからは『あいつら出てきたな』みたいな空気感が出るよね。準決勝に進むと、周りも祝福ムードになる。先輩から『お前らやったな!』とたくさん言ってもらった」

KOCは1回戦、2回戦、準々決勝(3回戦)、準決勝、決勝と5つのステージを勝ち抜く賞レースだ。NSCを出たばかりの新人が目指すのはだいたい「芸歴5年で準々決勝進出」。それすら叶えられる芸人は少ないのが現実だ。

ところが、空気階段はわずか4年で準々決勝どころか、準決勝にまで進んだのだ。適切なたとえかわからないが、高校で野球を始めた人が、いきなり甲子園にレギュラーで出ちゃった、みたいな感じだろうか。

このブレイクの背景には何があったのか。

「ネタの作り方を変えたんだよね。それまではまず“設定”(シチュエーション)があった。ネタの設定をもとに面白いセリフ、やりとり、ボケを加えていくみたいな感じでやってた。

でも、3年目の途中くらいから“キャラクターを掘り下げよう”と考え始めた。
『こういうネタの設定だから、こういうキャラが出てくるでしょ、こういうキャラが出てきたらこういうセリフが出てくるでしょ』と考え始めてから劇場でのウケ方が変わった。芯を食ったウケ方をするな、って感覚がでてきて。少しずつ自信もついてきて、そのネタをKOCに持って行ったら、やっぱりウケた。気が付いたら、準決勝まで進んでいた
今までになかった引き出しからネタを作ったことで結果が出たんだ。

それでも準決勝に行くと、また違う世界が見えてくる。まだこれくらいのウケの量じゃ足りない(先に進めない)ことがわかった。ほかの(決勝行く)人たちって、ウケる量が違うんです」

この年、空気階段が披露したネタは「取り調べ」。刑事役の水川がサイバーテロを起こした多重人格の犯人・もぐらを取り調べる話だ。犯人もぐらの特異さ、そして刑事水川のリアルなリアクションやセリフに、一気に引き込まれていく。“3年目での発見”がこのネタを生んだのだろう。

慢心

ところが、だ。翌2016年、『空気階段』はKOC2回戦で敗退してしまった。

「芸歴4年目の若手なのに準決勝に行けたことで、“何をやってもウケる無双状態に入った”と思ってしまった。慢心があって……。2016年はものすごくすべって落ちた。

気が緩んだわけではないし、2回戦だからって抜いたわけではなくて……。ネタの選び方に慢心があった気がする

その時のネタは、もぐらが一言もしゃべらなくて、ツッコミもボケもない。かなりトリッキーなネタを選んでしまった。そういうネタをやっても勝てるでしょ、ちょっと違うことをやってもいいでしょ、と思ってしまった」

相方が一言もしゃべらないコントも面白そうではあるのだが……。

「いいコントと、賞レースで勝てるコントは違う。いいコントって、別に爆笑がなくてもいいわけだけど、賞レースに限っていえば、“大きい笑いを起こした人が勝ち”。笑いの量に一番重きを置かなくちゃいけない」

笑いの量とは、笑いが起きる回数なのだろうか? それとも一発の大爆笑なのだろうか?

「どっちかっていうと、(回数よりも)大きさかな。あとは構成も大切。大きい笑いが最初にきて、その後は小さい笑いが続くっていうのもアレで……。右肩上がりを狙うというか、最後まで面白かったというところを狙うべき。いまだから、そういうことも冷静に分析できるけど、当時はわからなかったんだ」

またひとつ賞レースの難しさを学んだ空気階段。捲土重来を期して臨んだ2017年は、準々決勝で敗退する。

口惜しさがあったから、今年は絶対に勝ち上がりたいと思って、ネタをバーッてつくっていた。そしたら、賞レースに向いているようなネタが2本くらいポンポンできた。これは、今年は準決勝行けそうだな!って思ったんだけど……

2018年、KOCのルールが変更された。決勝のネタの時間が4分から5分(半)に、一分以上も長くなったのである。短時間でインパクトを残すコンビやトリオにとっては、ネタ時間が長くなることは不利に働く。ところが、キャラクターや世界観を武器にする空気階段にとっては、追い風となったようだ。

「影響はあったかな。ふだんコント1本をつくるときって10分くらいの尺になる。単独ライブのネタだったら20分超えるようなものもあるし。1分半伸びたことでできることが変わった。一本のコントの中に、もう一つ話の展開を作ることができるからね。4分だったら無理だけど5分半だったらなんとかイケるぞ、みたいなネタもあったから。やりやすくなったと思う」

実際、空気階段の魅力はもぐらの圧倒的なキャラと、水川のすさまじい演技力にあると僕は思っている。水川の演技力はNSCのころから際立っていた。セリフをわざわざ入れて説明しなくても、水川の表情と仕草だけで、設定や物語の背景が見えてくるのだ。

時間が長くなることによって、水川の魅力は一層引き立つのでは? 当時まったく売れていないしょぼい芸人だった僕ですら思った。

その予想通り、というべきか。3年ぶりに空気階段は準決勝に進む。披露したネタは「電車のおじさん」「クローゼット」。このネタは2本とも本当に面白かった。

特に電車内での青年(水川)とおじさん(もぐら)の話が展開される「電車のおじさん」は、最初から最後までワクワクする最高に面白いネタだ。

もぐら演じるおじさんのキャラは最高だし、水川のセリフはお客さんの気持ちを完璧に代弁していて、共感の笑いが起きる。そして、別のおじさんが次々現れるという展開……。4分よりも5分半で見たいと思える素晴らしいネタだ。

言うまでもなく、客席からは大きな笑いが起こった。

〈『空気階段』が準決勝ですごくウケていたらしいよ!〉

そんな噂がすぐに僕の耳にも入ってきた。若手の芸人は、賞レースの結果がつねに気になるものなのだ。「ついに僕らの同期から賞レース決勝進出者が出るのか」。悔しさより喜びしかなかった。ついにあのテレビの決勝の夢の舞台に同期が立つ――。僕は勝手に鼻高かったのを覚えている。

しかし、なぜか空気階段は準決勝で敗退する。理由はいまも分からない。

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    東京NSC17期生。6年間のお笑い芸人活動を経て、2019年小説『この人生の主人公は僕だった』出版。現在フリーランスで活動中 よろしくお願いします

  • 写真東山純一

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