FRIDAY(フライデー)

『ガラスの仮面』美内すずえ先生に聞く、「新しい地図」の魅力

「ミュージカルでもショーでも、コントでも良いので、3人が一緒に出るステージが観たいです」

2017年からTwitterを開始して以来、元SMAPで「新しい地図」として活動する3人(稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾)について度々言及してきた『ガラスの仮面』等の大御所漫画家・美内すずえさん。草彅が主演映画『ミッドナイトスワン』で第44回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞したときにも早速に喜びの声をあげ、また、稲垣の主演舞台『No.9-不滅の旋律-』には4回足を運んでもいる。

“演劇”を描く日本で一番有名な漫画の作者として、彼らの芝居のどこに惹かれたのか。きっかけや、彼らの魅力について、たっぷり1時間語ってもらった。

撮影:岡田こずえ
すべての写真(全14枚)

あれはいったい何ったんだろう…こんなことを彼らにさせちゃいけない

――美内すずえ先生はこれまでも元SMAPの3人について、Twitterで度々コメントされています。きっかけは何だったのでしょうか。

美内すずえ(以下 美内) 私はもともと熱心なSMAPファンというわけじゃなかったんですよ。もちろん好きな歌はいくつかありましたし、フジテレビの月曜10時放送の『SMAP×SMAP』はすごくユニークなので好きで、いつも録画して観ていましたが、いて当たり前の存在だっただけに、ごく普通のファンだったんです。ところが、知り合いなどの間でSMAPが解散するという噂が流れてきて、「ウソでしょ!? どうなっちゃうの!?」と。

そこから、ファンの方が今も“公開処刑”と呼んでいる謝罪が行われたでしょう。いつもセンターにいる中居(正広)さんが端にいて、真ん中にいる木村(拓哉)さんが謝って、みんな悔しそうで。あれはいったい何だろう、こんなことを彼らにさせちゃいけないだろうとやるせない思いになって、関心が深まっていったんです。

何より感動したのは、「ありがとう」という思いを込めたアンサーとして広告

――確かにあの「公開処刑」は忘れられないですよね。しかも、いつも自分たちの言葉で語ってきたSMAPが、語る場ももらえなかった。

美内 そうなんです。解散コンサートもなく、なし崩しに消えていったから、いつ解散したかも明確にはわからない。

そんな中、私がビックリしたのは、「NAKAMA」と呼ばれる彼らのファンの人たちがすごい愛情を持っていること。SMAPが解散するとき、ファンの方がお金を集めて、新聞に一面広告を出したじゃないですか。それで3人が「新しい地図」を立ち上げるというとき、今度は彼らの側が同じ新聞社で記事広告を出した。私、あれだけはゲットしたんですけど、青い空に東西南北の地図の記号をあしらっていて素敵でしたよね。

「新しい地図」。NEWS、MAP。NEW・SMAP。新しいSMAP、ってことですよね。なんかちょっとイイですよね。

何より感動したのは、熱心なファンに対して「ありがとう」という思いを込め、アンサーとして記事広告を出す粋な対応で、そこから全体のファンになっていったんです。

撮影:島颯太
撮影:原一平

「草彅剛、彼は天才だよ」あのつかさんが、誰かを指して天才って言うなんて信じられなくて…

――美内先生は、新しい地図の方々とは面識があったのですか。

美内 ずいぶん昔(1999年・2000年)、つかこうへいさんの舞台『蒲田行進曲』に草彅さんがヤス(村岡安次)役として出るということで、つかさんからご招待いただいて観に行ったことがあったんです。

あのSMAPの華やかなアイドルが、ある意味汚れ役をやるってどうなんだろうと思ってビックリしていたんですが、始まる前につかさんに楽屋のロビーでご挨拶したら、「会わせるから」と連れて行ってくれて。その途中でつかさんがクルッと振り向いて「草彅剛、彼は天才だよ」とボソッと言ったの。あのつかさんが、誰かを指して天才って言うなんて信じられなくて。

何故かというと、つかさんのお稽古場を見学に行ったことがあるんですが、私が団員だったら辞めちゃうと思うくらい厳しさが半端なかったんです。それこそ世間でチヤホヤされているタレントさんなども、プライドがズタズタになるほど言葉でいじめて、そのプライドを捨てさせるらしいんですけど、草彅さんについては「天才だよ」の一言ですから、聞き違えたかしらと思ったくらいです。

それで、草彅さんの控室に行ったら、考えたら不思議ですよね、偶然、今の新しい地図の3人がいたんですよ。誰か一人がソファで寝転がって、他の一人が後ろでふざけていて、つかさんが入ると慌ててみんな直立するんです(笑)。それでつかさんが『ガラスの仮面』の作者の、と紹介してくださったんですけど、ずっと直立不動で緊張されていたので、簡単な挨拶だけして引き上げたんですけど。

――実際に舞台をご覧になっていかがでしたか。

美内 草彅さんのお芝居はそのとき初めて観たんですけど、びっくりしましたね。SMAPのアイドルとして踊ったり歌ったりする姿しか見ていなかったので、彼がしっかり「つか芝居」をしていることに驚いて。

つかさんのお芝居のやり方は独特で、台本を見せるんじゃなく、口伝えでセリフを渡していく方なので、「このセリフ辞めた」「やっぱりこれにする」と何度もその場で変わっていく。役者さんは覚えるだけでも大変だと思うんですが、さらに機関銃のように高いテンションで激しく台詞の掛け合いをするんですよ。それを草彅さんが舞台の上で、今まで観た「つか芝居」の役者さんたちと同じテンションでやっているんです。「何だろう、このひと?」というのが最初の印象でした。アイドルの概念がひっくり返ったというか、ようするに役者としての草彅さんに驚いたんですね。そこにアイドルの草彅剛さんがいなかったので。

そこから注目するようになって。そのすぐ後だったかな。テレビドラマに出たときに観たら、つか芝居をちょっと引きずってテンション高めだったので、「テレビでこれはちょっとマズイかも」と思ったら、すぐに訂正されて。すごく勘の良いひとなんだと思っていました。

その後、新しい地図になってから、白井晃さん演出のお芝居『バリーターク』も観に行きましたが、不条理的なセリフを抵抗なくやってのけるし、音楽劇の『道(La Strada)』の主演として旅芸人の傲慢な男役も、ちゃんと成立させていて。

舞台の上の人たちにはいつも注目しているんですが、草彅剛さんは、興味深いですね。底なし沼みたいなものを持っていて、その底に多くのものが眠っている。そんな印象かな。これからどんなものが浮上してくるのか、楽しみです。

撮影:島颯太

“NAKAMA”の方から「草彅剛は北島マヤです」と言っていただくんですよ

――映画『ミッドナイトスワン』についてもコメントされていましたね。

美内 評判は聞いていたんですが、うまく時間がとれなかったこととコロナ禍だったこととで、1度だけ観に行きました。でも、1回観ただけなのに深い思いが残って、3日間くらい脳内再上映していました(笑)。頭の中で何度も、映画を繰り返し観ていたんですよ。こういう映画は久しぶりです。凪沙が一果の舞台のためにお金が必要で、男の姿で働く場面があるでしょう。あそこ、すごいですね。男の体だけど心は女。女として生きていた凪沙が重労働の男の仕事をする。そこにも“女”の戸惑いと非力さがにじみ出てるんですから。ほんのちょっとした場面ですけど、私は印象に残りました。

もちろん監督さんの脚本や演出も素晴らしかったのですが、よくあの役を草彅剛さんに振ったな、と感心しました。凪沙の一果に対する心の変化や、母性のようなものが生まれていく様子など、うまく表現されていて。あの映画の中にいたのは草彅さんじゃなく、確かに“凪沙さん”でした。


映画の終盤では、映画館のあちこちですすり泣きが聞こえてくるんですが、わかりますよ。理屈じゃない涙が出てくるんですよね。トランスジェンダーの“彼”の中に芽生えた母性。その哀しさと無償の愛に、お客さんはきっと席を立てなくなるんだと思います。

さらに、今はNHK大河ドラマ『青天を衝け』で徳川慶喜を演じていますが、その宣材で慶喜公の写真と並んで、慶喜公に扮した草彅さんの写真を見たのですが、いや、ほんと、ビックリしました。顔のパーツなどは違うのに、雰囲気があまりにそっくりで。慶喜公そのもの。よく“憑依型”って言われているようですが、ほんとにそうかも。こんな役者さんは、ちょっと見たことないですね。

よく「新しい地図」のファンの“NAKAMA”の方からメールをいただくんですが、「草彅剛は北島マヤです」と言っていただくんですよ。

――私も実はそう思っていました! 草彅さんのお芝居をご覧になったとき、美内先生は(ガラスの仮面の)月影千草先生のように「見つけたわ!」「恐ろしい子!」と思ったのですか。

美内 それはなかったです(笑)。そもそもSMAPの草彅さんとして見ていたので。いまでは「おそろしい子…!」とは思いますが(笑)。

撮影:島颯太

テレビで観られなかった空白の期間が一気に消えて…

――草彅さんが7年ぶりに『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系/4月18日放送分)に出演されたとき、『ミッドナイトスワン』の凪沙の表現について「できちゃった」とおっしゃっていたのも印象的でした。

美内 私も録画して観ましたよ。一果役の服部樹咲さんのアップの背後に、草彅さんのアップが映ったんですが、それがもう、ちゃんと凪沙の顔、お母さんの顔になっていたんです。愛しい娘を見る、お母さんのような優しい表情で。番組の中でも冷やかされていましたけど、「自然にそうなっていた」とおっしゃっていましたね。そこが「おそろしい子…!」ですよね(笑)。

――『ミッドナイトスワン』や、大河ドラマでの徳川慶喜を観ると、やっぱりすごい役者さんだなと思うのに、久しぶりに地上波バラエティに出演している顔をみると、昔からよく知っている草彅さんそのままなのも不思議で。

美内 そうなんです。解散直前から現在までの間、テレビで観られなかった空白の期間が一気に消えて。いやな思いもいっぱいしただろうし、苦労したとも思うんですけど、それを一切感じさせず、淡々とされている。なんかいいですね。いつも明るく楽しいオーラをまとっているし。草彅さんのYouTube、ときたま拝見しているんですが、私の目線はなぜか、(フレンチブルドッグの愛犬)クルミちゃんばかり追いかけています(笑)。最近は息子のレオン君もかな。あまり草彅さんのことは見ていないかもです(笑)。

撮影:原一平

――稲垣さんの舞台『No.9-不滅の旋律-』も4回もご覧になったそうですね。

美内 はい。再演の千秋楽を入れると5回ですね。実は初演(2015年)のときのポスターを見て、ベートーヴェンとしてタクトを振る稲垣吾郎さんの表情に惹かれて、この舞台を観たい、と思ったんです。でも初演は観られなくて、再演のとき、無理して久留米の千秋楽を観に行きました。そのとき、作品にも稲垣さんにも興味を持って。やはりSMAPの稲垣さんとは違う存在感が印象的でした。次にやるときは、絶対にしっかり観たいって。で、再再演の今回は4回の観劇。

2台のピアノと本物のオペラ歌手を効果的に使っていて、周りの皆さんも芸達者で、演出もいい。そんな中、音楽に憑りつかれて、人生はめちゃくちゃで、周りの人もいっぱい傷つけるベートーヴェンが、それでもタクトを振ると、崇高なひとに見える。次元の違う意識下にいる。その変貌がいいんです。


1幕の終わりには、いつも鳥肌が立ったし、ラストは、No.9の指揮をする稲垣さんの恍惚とした姿に心を奪われます。もう、そこにはベートーヴェンしかいなくて。観客も、舞台の上でベートーヴェンの人生に付き合ってきて、最後にベートーヴェンと共に、カタルシスというか、光の世界へとたどりつく。少なくとも私はそう感じました。同じように思った観客は多かったんじゃないでしょうか。あのラストの感動は、何度でも体験したいです。

で、同じこのスタッフで『SANSON~ルイ16世の首を跳ねた男~』の公演があると知って、また4回分のチケットをひとに頼んで用意したんですが、初日を観たきりで、いきなりコロナの緊急事態宣言。残りの公演が中止になってしまいました。もう残念で。あとは宣言明けの地方公演を待つしかないです。

稲垣吾郎さんは、本好きのインテリ吾郎のイメージがありますけど、だいぶ前のテレビ番組で、稲垣さん、陰陽師の安倍晴明の役をやってらしたことがあって、そのときも、ああ、この人はこういう役が似合うな、と思ったことがあります。
そういう役も、また舞台で観てみたいですね。映画『半世界』も評判良いようで、まだ観ていないのですが、どこかでぜひ観たいですね。

――稲垣さんは『ガラスの仮面』の桜小路くんに似ていると思っていました。

美内 えっ!本当ですか。(ああ、雰囲気がどことなく……と秘書の女性)そう? それは考えたことなかったけど(笑)。

――稲垣さんの舞台をご覧になったのは今回が初めてだったんですか。

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  • 取材・文田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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