

『まんぷく』序盤から悲劇をたたみかける「作り手」の決意を見た
作家・栗山圭介の『朝ドラ』に恋して 第1話
『居酒屋ふじ』『国士舘物語』の著者として知られる作家・栗山圭介。人生の酸いも甘いも噛み分けてきた男が、長年こよなく愛するのが「朝ドラ」。毎朝必ず、BSプレミアム・総合テレビを2連続で視聴するほどの大ファンが、思わず泣いた、感動した場面を振り返る。初回は大人気放送中の『まんぷく』第1~3週から。

NHK連続テレビ小説「まんぷく」公式サイトより
開始早々、悲劇続きの展開
朝ドラは転校生だ。半年前にやってきたと思ったら、またどこかに行ってしまう。さほど気にも留めていなかった子をいつしか想うようになり、そわそわしだして想いを告げようとした頃にはもういない。嗚呼、このせつなさを何度繰り返せばいいのかと呆れながら、ぽっかり空いた胸の奥に半分青い秋空を詰め込んだ。
そしてまた転校生はやってきた。ドリカムの主題歌に合わせて奇妙なダンスを踊りながら。前髪パッツン爬虫類顔の主人公の名前は福子(安藤サクラ)。三姉妹の末っ娘で、のびやかな性格とはつらつとした演技で早々に私の心を掴まえた。とはいえ、前作ヒロインへのときめくような想いではなく、観察目的で尾行したくなるようなマニアックな気持ち。これまでにはない感覚で、経験したことのない”好き”の足音がヒタヒタと迫ってくる。
舞台は戦時下の大阪。世紀の大発明、インスタントラーメンを生み出した夫婦の知られざる物語を描いていくのだが、放送開始二週目にして長女の咲(内田有紀)が結核で死に、福子が想いを寄せ、その後夫となる萬平(長谷川博己)が憲兵隊の牢に捉われてしまう。戦時下の話に不幸はつきものだが、まだドラマの行方に視聴者心理が安定しない三週目の段階で、避けては通れない悲劇をふたつ盛り込んだ勇気に拍手を送りたい。「放映早々、こんな辛い話を朝から観せるんかい!」という視聴者の意を受け、”悲劇や苦労話とともに、この半年をご一緒させてください”という作り手側の真っ向勝負のメッセージが伝わってきた。